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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)10398号 判決 2000年7月27日

第一事件原告

三井海上火災保険株式会社

被告

レントピアサービス株式会社

ほか一名

第二事件原告

レントピアサービス株式会社

被告

三井海上火災保険株式会社

ほか一名

主文

一  第一事件被告・第二事件原告レントピアサービス株式会社及び第一事件被告堀口正一は、各自第一事件原告・第二事件被告三井海上火災保険株式会社に対し、金三二万五〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第二事件被告片山パン株式会社は、第一事件被告・第二事件原告レントピアサービス株式会社に対し、金六万七九二九円及びこれに対する平成一〇年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  第一事件原告・第二事件被告三井海上火災保険株式会社は、第一事件被告・第二事件原告レントピアサービス株式会社に対し、前項の判決が確定したときは、金六万七九二九円及びこれに対する平成一〇年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  第一事件原告・第二事件被告三井海上火災保険株式会社のその余の請求、第一事件被告・第二事件原告レントピアサービス株式会社のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用はこれを四分し、その三を第一事件原告・第二事件被告三井海上火災保険株式会社及び第二事件被告片山パン株式会社の、その余を第一事件被告・第二事件原告レントピアサービス株式会社及び第一事件被告堀口正一の負担とする。

六  この判決第一項及び第二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(第一事件)

第一事件被告・第二事件原告レントピアサービス株式会社及び第一事件被告堀口正一は、第一事件原告・第二事件被告三井海上火災保険株式会社に対し、連帯して金一三〇万円及びこれに対する平成一〇年一二月一九日(保険代位の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(第二事件)

一  第二事件被告片山パン株式会社は、第一事件被告・第二事件原告レントピアサービス株式会社に対し、金九万〇五七二円及びこれに対する平成一〇年一〇月二一日(不法行為の日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第一事件原告・第二事件被告三井海上火災保険株式会社は、第一事件被告・第二事件原告レントピアサービス株式会社に対し、前項の判決が確定したときは、金九万〇五七二円及びこれに対する平成一〇年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、事業用普通貨物自動車が、車体左側の荷台扉を路上に張り出した状態で道路右側に停車中、同車両の左側を通過しようとした自家用普通貨物自動車が荷台扉に衝突した事故で、双方の車両に生じた車両修理費用等の損害賠償を、相互に請求し合った事案である(第一事件は、商法六六二条一項の保険代位に基づく請求であり、第二事件は、民法七一五条に基づく使用者に対する請求及びその請求に対する判決の確定を停止条件とした自動車保険契約に基づく保険会社に対する請求である。)

一  争いのない事実等(特に証拠を挙げた部分以外は当事者間に争いがない。)

(一)  第一事件原告・第二事件被告三井海上火災保険株式会社(以下「原告三井海上」という。)は、第二事件被告片山パン株式会社(以下「被告片山パン」という。)との間で、下記自動車保険契約を締結していた。

証券番号 第〇八六〇四一三七五七号

契約日 平成九年一二月一日

保険種類 PAP(車両保険付き)

保険者 原告三井海上

保険契約者 被告片山パン

被保険自動単 登録番号 京都八〇あ七三九

保険期間 平成九年一二月二日から一年間

(二)  訴外柴原葉子(以下「訴外柴原」という。)運転の前記被保険自動車(以下「原告車両」という。)と、第一事件被告・第二事件原告レントピアサービス株式会社(以下「被告レントピアサービス」という。)所有、第一事件被告堀口正一(以下「被告堀口」という。)運転の自家用普通貨物自動車(以下「被告車両」という。)との間で、下記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

発生日時 平成一〇年一〇月二一日午前一〇時一〇分ころ

発生場所 京都市南区西九条島町四番地先京都市道上

事故態様 原告車両が、車体左側の荷台扉を路上に張り出した状態で、東向き一方通行の進行方向に向かって右側に停車中、その左側を通過しようとした被告車両が上記荷台扉に衝突したもの。

(三)  被告片山パンは訴外柴原の、被告レントピアサービスは被告堀口のそれぞれ使用者であり、本件事故は、いずれにとっても業務中の事故であった(証人柴原葉子、被告堀口本人、弁論の全趣旨)。

(四)  被告片山パンは、本件事故により車両修理費用として一三〇万円の損害を被った。原告三井海上は、被告片山パンに対し、平成一〇年一二月一八日、前記保険契約に基づき、車両保険金として一三〇万円を支払った(甲五号証)。

二  争点

訴外柴原及び被告堀口の本件事故に対する過失の有無及び割合。

第三争点に対する判断

一  甲三号証ないし七号証、九号証ないし一二号証、乙一号証ないし二一号証、二四号証、二七号証ないし三〇号証、三三号証、三四号証、証人柴原葉子、同神元宏幸、被告堀口本人によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  本件事故現場である市道は、市街地を通る車道幅員約五・五メートルの東向き一方通行のアスファルト舗装された直線道路であり、道路南側端の縁石から約一メートルの地点には外側線が引かれている。本件市道には駐車禁止の規制がなされており、道路上に特段見通しを妨げるものはないが、本件事故当時の天候は雨で路面は湿潤していた。

(二)  訴外柴原は、被告片山パンにアルバイトとして勤務していた者であり、本件事故の発生する約五ないし六分前に、パンを路上販売する目的で、原告車両を本件事故現場の市道南側(進行方向右側)に、車体右側と縁石とが平行になるように間隔を約一〇センチメートルほど空けた状態で停車させた後、パンを陳列販売するため車体左側の荷台扉を路面とほぼ並行に車両の天井とほぼ同じ高さに跳ね上げた状態にして、車両の後方付近に立ち、買い物客と応対していた。

上記のように荷台扉を跳ね上げた場合、原告車両の荷台扉は、地上から約一・八五メートルの高さで、車体左側面から約一・二メートル張り出すことになり、その状態での原告車両の右側面から荷台扉左先端までの幅は約二・五四メートルとなる。また、荷台扉自体の厚さは約一・五センチメートルであり、色は白色をしている。

(三)  被告堀口は、被告レントピアサービスの従業員として、警察からの依頼を受けて駐車違反車両のレッカー移動等の業務に従事していた者であるが、本件事故当日、助手席に訴外神元宏幸(以下「証人神元」という。)を同乗させ、被告車両(レッカー車)を運転して本件事故現場に差し掛かった。

被告車両は、車幅が一・六九メートル、車高が二・一六メートルであり、運転者の目線の位置は路面から約一・七メートル前後の高さになる。

(四)  被告車両は、時速約二〇ないし三〇キロメートル程度の速度で、自車の数メートル前を走る普通乗用自動車に追従するように車道のやや左より中央付近を走行していたが、本件事故現場において、停車中の原告車両の左側を通過しようとした際、原告車両の荷台扉が跳ね上げられていることに気付かずに、被告車両の右フロントピラーの地上から約一・七五メートルの高さの位置に原告車両の荷台扉先端部を接触させた。被告堀口が接触の衝撃を感じて直ちに制動措置を講じた結果、被告車両は、接触地点から約五・二メートル進行した地点で停止した。

(五)  右接触時の衝撃で、原告車両は、前記荷台扉が脱落するとともに、車体が時計回りの方向に回転するように押し出された結果、右前輪部分が縁石に接触して破損するなどしたほか、訴外柴原の身体に車体の一部が当たり、同訴外人は胸部打撲等の怪我を負った。

(六)  被告堀口は、本件事故後、訴外柴原が路上にうずくまっているのを認め、被告車両に積んであった携帯電話を持って、証人神元とともに訴外柴原のところまで行き、安否を確認した後、携帯電話で警察署及び被告レントピアサービスに事故の連絡をした。

(七)  本件事故により、被告車両は右フロントピラー及びその周辺部を損傷し、その車両修理に要する費用は八万二五七二円である。

二  以上の事実に基づいて判断するに、まず、原告車両の荷台扉が厚さ僅か一・五センチメートルと薄く、色は白色で、それが被告車両を運転していた被告堀口の目線の位置とほぼ同じ高さに路面と平行に張り出されていたこと及び本件事故当時の天候が雨であったことからすると、被告堀口からの荷台扉の視認状態は極めて良くなかったことが窺われるが、それでもなお、被告堀口が前車との車間距離を十分にとった上で進路前方右側に停車中の原告車両の状態を注視していれば、原告車両の左側方を通過しようとする際に、その手前において原告車両の荷台扉が跳ね上げられていることに気付くことができ、ハンドル又は制動装置を適切に操作することによって本件事故を回避することが可能であったと考えられるから、被告堀口には、本件事故の発生につき、前方不注視の過失が存在したというべきである。

三  次に、訴外柴原は、幅員が約五・五メートルと狭い一方通行の道路右側に原告車両を停車させた上、荷台扉を跳ね上げて、道路のほぼ中央付近(道路南端の縁右から少なくとも約二・六四メートル付近)まで張り出した先端部の高さが地上から約一・七五メートルとなる状態にしていたことが認められるところ、このような行為は、荷台扉自体の厚みが一・五センチメートルしかなく、路面と平行になるような状態で跳ね上げられている場合、原告車両の側方を通過しようとする車両の車高及び車両運転者の視線の位置によっては視認性が極めて良くないことがあり得、車両の通行位置によっては荷台扉の存在に気付かないままあるいはその発見が遅れるなどして、衝突の危険を招くおそれの多分にある極めて危険な行為というべきである。

もっとも、訴外柴原は、本件事故当時、原告車両の荷台扉後方先端部に、危険防止のため、濡れタオルを入れた白色無地のスーパーなどでもらう大きめのビニール袋を下げておいたと証言するが、事故直後に撮影された事故現場の写真からはそのようなビニール袋が存在したことを窺うことができないし、被告堀口がそのようなビニール袋の存在に気付かなかったと供述しているのみならず、証人神元も同旨の証言をしていることからすれば、前記訴外柴原の証言を俄に信用することはできない。また、仮に、ビニール袋を下げていた事実があったとしても、白色のビニール袋では視認性が良いとは言えないから、危険防止措置として到底十分と言えないことが明らかである。

したがって、本件事故の発生に関しては、訴外柴原にも、他の車両の安全な通行の妨げになりかねない方法で荷台扉を道路上に張り出した上、これに対する十分な注意喚起の措置を講じなかった過失が存在することが認められる。

そこで、被告堀口と訴外柴原の過失割合につき考察すると、本件事故が発生した主たる原因は、訴外柴原が視認性の良くない荷台扉を適切な注意喚起の措置を講ずることなく被告車両の交通の妨害となるような方法で進路上に張り出した過失にあるというべきであって、その過失内容に照らすと訴外柴原の過失が著しいといえるが、前記の被告堀口の過失もあるので、その内容、程度等諸般の事情を併せ考慮すると、本件事故における被告堀口と訴外柴原の過失割合は、前者が二割五分、後者が七割五分と認めるのが相当である。

四  そうすると、原告三井海上の請求は、原告車両の損害額一三〇万円の二割五分に当たる三二万五〇〇〇円の支払いを求める限度で理由があり、被告レントピアサービスの請求は、被告車両の損害額八万二五七二円の七割五分に当たる六万一九二九円に、本件事故と相当因果関係のある損害として認めることのできる弁護士費用六〇〇〇円を加算した六万七九二九円について、被告片山パンに対しては即時の、原告三井海上に対しては被告片山パンに対する判決の確定を停止条件として支払いを求める限度で、それぞれ理由があり、その余は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 福井健太)

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